RPAは、手順が定まっているルーティン業務を自動化し、人間がより付加価値の高い業務に集中するうえで有用なツールです。RPAは導入のハードルが低く、多くの企業で注目を集めていますが、ルールを定めずに使用すると思わぬトラブルが起こる可能性もあるので注意しましょう。
そこで今回は、RPAを導入する際にガバナンスの整備が必要だといわれている理由を紹介します。併せて、起こり得るリスクやガバナンス構築のポイントについてもわかりやすく解説していきます。
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RPAガバナンスとは?
RPAガバナンスとは、「企業がRPAの利用を管理するために定めるルール」です。
統括する責任者を用意しないまま、RPAの管理を各部門に任せてしまうと、野良ロボットの出現などさまざまなトラブルが起こるリスクがあります。
そのため、「どのような業務にRPAを導入するのか」「適用範囲はどこまでなのか」など、利用に関して安全性を高めるためのルールを決めなければなりません。
なぜRPAガバナンスを策定する必要があるのか
最近では、さまざまな事業者がRPAツールを提供していることから、導入のハードルは以前に比べて格段に下がっています。なかには、無料で利用開始できるツールもあるため「取りあえず、ダウンロードしてみよう」と思い立って導入を開始する事業者もいるでしょう。
しかし、気軽にRPAを利用し始めると、社内の統制が取れないまま無秩序に開発や利用が行なわれてしまいます。それによって重大なセキュリティ事故やコンプライアンス違反が起こる恐れがあります。
あらかじめ、運用に関するリスクマネジメントを万全な状態にしておくためにも、ガバナンスの策定は欠かせません。
ただし、あまりにも縛りを厳しくしすぎると、RPA導入のスピード感が低下するデメリットも生じます。特に、中小企業などでは重要な部分にのみ、ガバナンスを策定するのがおすすめです。
RPAガバナンスがない場合に起こりうるリスクについて
RPAガバナンスを整備していないと、運用上のトラブルだけでなく、セキュリティの問題を抱えることにもなりかねません。事前にどのようなリスクが考えられるのかを確認しておき、リスク回避策を練っておくことが重要です。
RPAガバナンスが存在しないことによって起こりうるリスクには、次の4つが挙げられます。
【RPAの成果の問題】RPAが期待した効果を発揮しない
「どの業務範囲にRPAを導入するのか」が明確に定められていないと、RPAが持つ本来の効果を発揮しきれないという懸念があります。RPAを導入する際に、あらゆる業務を自動化したいと考える事業者は少なくありませんが、残念ながらRPAはすべての業務を自動化できる領域にまでは、今のところ達してはいません。
まずは、自社の業務を洗い出して「どのような業務にRPAを適用できそうか」を検討し、目的や目標を正しく設定することが大切です。目的や目標が明らかになっていないと、期待していた成果が発揮できずにコストだけが膨らんでしまう恐れがあります。
【運用の問題】誤処理や例外発生時に正しく対応できない
RPAは繰り返しの業務を得意としていますが、例外やエラーが発生したときに単体ではうまく対応しきれないというデメリットがあります。事前に考えられる例外をリストアップしておき、一つひとつに対してどのように対処するのかを定めておく必要があるでしょう。
運用ルールが定まっていない状態でRPAを稼働させてしまうと、例外が発生していること自体に気が付かないまま誤った処理が続いたり、突発的なエラーに対応できずに大幅な業務効率の低下を招いたりするリスクがあります。
【ブラックボックス化の問題】RPAを適用した業務が把握できなくなる
RPAを管理していた人材が部署の移動や退職などでRPAに携わる業務から離れたとき、後任に正しく引き継ぎが行なわれていないと、前任者が作成したロボットは管理者不在となり、いわゆる「野良ロボット」になってしまいます。
新しい担当者は、どのような処理を行なっているのかを把握できないため、そのRPAは誰も止めることができずにブラックボックス化する可能性があるでしょう。
【セキュリティの問題】RPAの不正使用が起こる可能性がある
RPAを利用する規定が明確に定められていないと、RPAの管理者が個人の権限でさまざまなデータにアクセスできてしまう恐れがあります。悪意を持った人物が管理者になれば、ロボットを通して情報への不正アクセスや、情報漏洩につながることもあるでしょう。
例えば、本来はアクセスできない社内の機密情報を保管しているフォルダにロボットを経由して侵入し、内容を盗み見るなどの行為が行なわれるかもしれません。また、運用前に権限を正しく設定しておかなければ、他部署のデータにアクセスできてしまうなどの事故が起こることも考えられます。
このようなセキュリティの問題を避けるためにも、ガバナンスを整備して社内のルールを徹底することが必要でしょう。
RPAガバナンスを整備する際に押さえるべき4つのポイント
RPAガバナンスを整備する際は、次の4つのポイントを押さえておくことが大切です。部署単位でRPAを統括するのではなく、あくまでも全社で統一したルールを用意することが安全で一貫した運用につながります。
全社レベルでのルール統制
部署などの小さな組織ではなく、全社レベルでのルール統制を行ないましょう。まずは、RPAを導入する目的や達成したい自社の課題を明確化し、全員で意識を共有することが大切です。
目的と課題がはっきりしたら、それを解決するためにどのようにRPAを導入していくのか方針を定め、具体的なルールや中長期的な導入スケジュールを策定しましょう。その際、RPAに自社のどの業務を自動化させるのかを決定し、人間とロボットの責任の所在や範囲を切り分けることも重要です。
導入を開始したら、RPAツールに関する知識に偏りが出ないように社員教育を広く行ないましょう。導入準備には、RPAと基幹システムの連携などが必要になるケースも多いので、部門間をまたいで協力しながら進める必要があります。
会社システム全体の統制
RPAを導入するにあたり、社内で利用している他のシステムとの連携が必要な場合は、RPAが現行システムにどのような影響を与える可能性があるのかを想定し、評価しておくことが大切です。
アプリケーションのカスタマイズやインフラ整備が必要であれば、RPA導入以外の追加コストや導入準備が必要になるでしょう。
万が一、RPAの導入後にトラブルが起こった際の対応策をひととおり考慮して、準備を整えておくことも重要な項目の一つです。RPAは通信障害などによってエラーや誤動作が起こりうるので、ロボットが不測の事態で停止したときの対策を考えておく必要があります。
社内の広範囲の業務をRPAでカバーしているほど被害は甚大になりやすいので、入念な対策を行なわなければなりません。
セキュリティ管理方法の統制
ロボットのIDを発行する際はアクセス管理を厳格にし、不正アクセスの防止に努めましょう。業務の適用範囲以外のアクセスを禁じるなどの権限設定が正しくできていれば、悪意ある人物の不正使用をある程度防げます。
また、クラウド型などでは提供元によってRPAのバージョンアップが公開されるケースがあります。
ただし、バージョンアップすると既存システムに何らかの悪影響をおよぼしたり、RPAが正常に動作しなくなったりする可能性もあるので、むやみにアップデートを許可せずに一定のルールを作っておくことをおすすめします。
ログの取得・保存に関する統制
運用中に何らかのトラブルに見舞われた場合でも、ログを取得しておけば操作担当者やトラブル発生時の操作内容をすぐに把握できます。そのため、ガバナンスを制定する際はログの取得や保存に関する取り決めも行ない、明文化しておきましょう。
もし、不正利用があった場合でも不正を行なったユーザーを探し出せるので、セキュリティ対策の一環としても有効です。
会社のフェーズに合わせたガバナンス策定が重要
ガバナンスがないままRPAを運用し始めると、セキュリティリスクの発生や野良ロボットによるシステムのブラックボックス化など、悪影響が数多く発生する恐れがあります。
導入したRPAの効果を十分に発揮し、リスクマネジメントを万全にするためにも、会社のフェーズに合わせたガバナンスの策定が重要です。 自社の現状がどのような状況にあるのかを洗い出したうえで、今回紹介したポイントも振り返りながら、策定を進めていきましょう。